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東京地方裁判所 平成8年(ワ)21453号 判決 1997年6月23日

原告

株式会社武富士

右代表者代表取締役

坂本堯則

右訴訟代理人弁護士

寺崎政男

佐々木秀一

岩下嘉之

遠藤徹

被告

株式会社朝日新聞社

右代表者代表取締役

松下宗之

右訴訟代理人弁護士

秋山幹男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告に対し、週刊誌「アエラ」に別紙謝罪広告文案記載の謝罪広告を別紙記載の条件で一回掲載せよ。

二  被告は、原告に対し、金一億円及びこれに対する平成八年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、被告の発行する週刊誌「アエラ」(以下「アエラ」という。)において、消費者金融業者の取立ての態様及び利率についての記事を掲載したことにより、消費者金融業者である原告の社会的地位が低下したとして、原告から被告に対し、民法七〇九条、七二三条に基づき、名誉回復のための措置として、第一の一、二記載のとおり、アエラへの謝罪広告の掲載並びに慰謝料及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成八年一一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

二  争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は争いがない)

1  原告は、消費者金融等を業とする株式会社である。

被告は、日刊新聞紙の発行等を業とする株式会社であり、週刊誌アエラを発行し、多数の読者に販売している(発行部数は少なくとも約三〇万部)。

2  被告は、アエラ平成八年九月三〇日号において、「未成年者に貸し親から取り立て」という見出し(以下「本件見出し一」という。)のもと、北海道に住む清掃作業員のAが平成八年六月に原告に対して提起した損害賠償請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)の概要及びAの代理人弁護士のコメントを記載した記事(甲一。以下「本件記事一」という。)を掲載した。

本件記事一中には、「親も払う義務がある」という小見出しのもと、①北海道に住む清掃作業員Aが保証人になっていないのに、娘の借金を支払わされたとして、支払った金員や督促により健康を害したことに対する慰謝料等の支払を原告に求めて別件訴訟を起こしたこと、②Aが原告の従業員から「親も払う義務がある」といって娘の債務の支払を催促されたなどと話していること、③右訴訟において、原告はAからの金銭の受け取りは認めつつ、Aに対して請求したことや生活を破壊するような取り立てをしたことを否認していること、を記載した部分がある(甲一)。

さらに、本件記事一中には、「未成年への融資認める」との小見出しのもと、被告が消費者金融業者大手五社に出したアンケートの回答によると、原告ほか一社が未成年者に親の同意なしに融資していること及び「事実上の家族からの回収はありますか」との問いに対して、「まったくない」と答えた会社はなかったこと、を記載した部分がある(甲一)。

3  被告は、アエラ平成八年一〇月一四日号において、「今の金利は実は法律違反」という見出し(以下「本件見出し二」という。)のもと、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)四三条には触れずに、消費者金融会社の現行の利率等を記載した記事(甲二。以下「本件記事二」という。)を掲載した。

本件記事二中には、原告の新株式発行届出目論見書(甲三。本件記事二では「新株式発行届出目録書」と記載されている。以下「本件目論見書」という。)六ページに、「当社の上限金利は……『利息制限法』第一条一項に定められた利息の最高限度を超過する部分があります。この超過部分については……無効とされておりますが、同条第二項により債務者が当該超過部分を任意に支払ったときは、その返還を請求することはできないとされております。……なお、過去においては、顧客による超過部分の無効の申し出によって重要な損害を受けたことはありません。」と書いてあると記載したうえで、債務者はそもそも利息制限法の上限を超える部分の金利を支払う義務はないと記載した部分がある(甲二、三)。

なお、本件記事二においては、本件目論見書中の、「「貸金業規制法」第四三条により当該超過部分を債務者が利息として任意に支払った場合は、「利息制限法」第一条第一項の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなすとされております。」との部分は記載されていない(甲二、三)。

三  争点

本件においては、本件見出し一、二を含めた本件記事一、二の違法性及び本件見出し一、二それ自体の違法性が争われているが、原告が名誉を毀損された(社会的評価を著しく低下させられた)と主張する記事部分、すなわち、第二の二、2、3で認定した記事部分が真実であるかどうかが争点となっているわけではなく、公共の利害に関する事項についての記事であるかどうかが争われているわけでもない。本件の争点は、本件記事一、二、本件見出し一、二の表現の仕方であり、その表現が、読者に誤った印象を与えるような不適切なものであるか否か、そのような表現をした被告の意図が、原告に対する読者のイメージを低下させることにあったのか否か(このような意図が認められなければ、争われている記事の内容から考えて公益を目的とするものと認められる。)という点にある。

各記事及び見出しについての当事者の主張は次のとおりである。

1  本件記事一について

(一) 本件見出し一を含めた本件記事一の違法性の有無

(原告の主張)

本件見出し一を含む本件記事一は、別件訴訟の内容を紹介するもので、同訴訟の原・被告いずれの主張が真実であるかは、同訴訟の中で認定されるものであるが、本件見出し一を含めた本件記事一は、一般読者に対して、あたかも別件訴訟における原告である清掃作業員Aの主張が真実であるかのような、すなわち、あたかも、別件訴訟の被告である原告は、真実、未成年者に貸し付けたうえでその親に対して強制的に返済させているかのような印象を与える表現になっており、このような表現になっているのは、本件記事一が、アエラに五週にわたって連続して掲載された原告に対する批判的内容を中心に取り上げた特集の一環として、原告に対する一般読者のイメージを著しく低下させようとする目的で掲載されたものであるからであり、本件記事一の取材源も、消費者金融会社に対して強い否定的な考え方を有する別件訴訟の原告代理人であり、本件記事一は同代理人の活動に加担するものであって、中立公正なものではない。したがって、被告は、本件記事一によって、違法に原告の評価を著しく低下させ、その業務に著しい不利益を与えたものである。

(被告の主張)

原告の主張はすべて争う。

本件記事一は、一般読者に対してAの主張が真実であるかのような印象を与える表現にはなっていない。

本件見出し一は、本件記事全体にかかる見出しであり、原告に関する事実を伝えるものではない。すなわち、本件記事一は、最近消費者金融業界の業績の伸びが著しいが、未成年者への融資や過剰融資などの問題がなお存在することを指摘するものであり、右見出しは、消費者金融業界全体についてのものであり、原告に関する事実を伝えるものではない。

本件記事一中、原告が名誉を毀損されたと主張する記事部分は、「親も払う義務がある」との小見出しを付した部分と、「未成年者への融資認める」との小見出しを付した部分からなる。前者は、Aが、別件訴訟において、支払義務がないのに、Aの娘の債務について、原告の従業員から「親も払う義務がある」といって支払を催促されたなどと問題にしていること及びこれに対し、別件訴訟の被告である原告は、その事実を否認していることを紹介したものであり、後者は、消費者金融業者大手五社へのアンケート結果として、原告ほか一社が未成年者に融資していること、大手五社とも何らかの形で債務者の家族から回収する場合があることなどを掲載したもので、いずれも真実を記載したもので、Aの主張が真実であるかのような印象を与えるものではなく、原告の名誉を毀損するものではない。

(二) 本件見出し一自体の違法性の有無

(原告の主張)

雑誌、新聞等においては、一般読者が必ずしも常に記事の本文に目を通すとは限らず、見出しのみを見て、記事に対する誤った認識と印象を持つ可能性がある。したがって、報道機関としては、記事本文の内容はもとより、見出しのみについても、記事本文と独立して判断されても、一般読者をして誤った認識や印象を与えることがないように、見出しの正確性について特別な注意を払うべきものである。本件見出し一は、まったく独断的な見出しであり、一般読者をして、あたかも原告が未成年者に貸し付けた上でその親に対して強制的に返済させているという印象を与えたものであり、被告は、本件見出し一によって、違法に原告の評価を著しく低下させ、その業務に著しい不利益を与えたものである。

(被告の主張)

本件見出し一は、本件記事一全体にかかる見出しであり、原告に関する事実を伝えるものではないことは、前記のとおりであるから、本件見出し一が原告の名誉を毀損することはない。

また、アエラは、写真週刊誌ではなく、記事を読ませるニュース週刊誌であるから、通常の読者は、見出しだけで記事の内容を判断することはなく、本文を読んで記事内容を判断する。そして、本文を合わせ読めば、前記のとおり、読者は、原告が未成年者に貸し付けた上でその親に対して強制的に返済させていると理解することはない。

2  本件記事二について

(一) 本件見出し二を含めた本件記事二の違法性の有無

(原告の主張)

本件見出し二を含む本件記事二は、貸金業者が貸金業法四三条によって利息制限法超過利息についても適法に弁済を受けられることについては一切触れておらず、あたかも貸金業者が利息制限法超過利息について弁済を受けることがすべて違法であり、許されないかのような印象を一般読者に与えるものである。右貸金業法の適用については、本件記事二中に引用された本件目論見書にも記載されていたのに、被告があえてこれを引用しなかったものである。

また、本件見出し二では、金利について、「法律違反」とし、本件記事二の本文では、利息制限法違反としているが、利息制限法は、同法に定められた利率を超える部分について無効とするという法律効果を定めた法律であり、同法に定められた利率を超過する利息契約を禁ずるものではない。公正な論評としては、「今の金利は利息制限法上は無効」というべきであって、今の金利契約が利息制限法によって禁じられた違法行為であるかのような印象を読者に与える「法律違反」との表現は、公正な論評とはいえない。

さらに、本件記事二は、「銀行系も違法な金利」という小見出しのもとに、消費者金融業者以外の信販会社や銀行系のクレジットカード会社も年二〇パーセント台後半の金利であることに触れているが、信販会社やクレジットカード会社の金利については、具体的印象が極めて弱いのに対し、消費者金融業者の金利については、「サラ金の真実、誰もいわない支払い義務なし」という副題を掲げ、「消費者金融の金利が高いことは知られている」と冒頭に記載するなど、これを強調する構成になっている。しかし、東洋経済新報社発行の「金融ビジネス」一九九六年一一月号によっても、消費者金融業者、特に原告(実質金利年27.375パーセント)よりも高金利の信販会社やクレジットカード会社が多く、これらの会社の中には、金利が年三〇パーセント以上のところもあり、本件記事二の、金利が年二〇パーセント台後半であるとの部分は客観的にも間違いである。

本件記事二は、原告と同業の他社についても触れてはいるが、本件目論見書を冒頭に引用しているほか、原告役員のコメントを中心に構成されており、読者をして本件記事二が原告を中心とした記事であるという印象を与えるものである。仮に原告を中心とした記事といえないとしても、読者としては、本件記事二中で相当程度の割合を占める原告を念頭に置いて本件記事二を読むことは明らかである。

したがって、被告は、本件記事二によって、違法に原告の評価を著しく低下させ、その業務に著しい不利益を与えたものである。

(被告の主張)

原告の主張はすべて争う。

本件記事二は、一般読者に対して、貸金業者が利息制限法超過利息について弁済を受けることがすべて違法であり、許されないかのような印象を与える表現にはなっていない。

本件記事二は、原告などの消費者金融業者が利息制限法の制限利率を超える金利を取っている事実を指摘し、これについて「今の金利は実は法律違反」と論評したものであり、原告などの消費者金融業者が利息制限法の制限利率を超える金利を取っていることは真実であり、原告もこれを争わない。

民主主義社会においては、社会に生起する事象や問題について、人々が自由に意見を表明し、活発な議論が展開されることが何よりも大切であり、公共の利害に関する事項について論評の自由が妨げられてはならない。言論が他人の社会的評価を低下させる場合であっても、公共の利害に関する論評であって公益を図る目的によるものは、名誉毀損の不法行為責任を問われない、いわゆる「公正な論評の法理」によって免責されるものというべきである。

貸金業法四三条一項は、債務者が貸金業者に任意に支払った金銭のうち利息制限法の制限利率を超える利息は、所定の事項を記載した契約書面を交付した場合など一定の場合に有効な利息の弁済とみなすと定めているが、その場合も利息が利息制限法違反(法律違反)であることに変わりなく、また、任意に支払ったのでなければ無効である。立法担当者の論文である乙第五号証においても、「この規定によっても、利息制限法の制限超過部分の金利の「契約」自体が無効であることに変わりはない」と記載されており、学者の論文である乙第六号証においても、貸金業法四三条一項は利息制限法の適用を排除するものではなく、利息制限法の制限を超える利息は同法に違反し無効であると記載されている。

本件記事二では、本件目論見書を引用するにあたり、「原告の貸付利率は利息制限法の最高限度を超過し、超過部分は無効とされているが、任意に支払ったときは返還を請求することができないとされている」との趣旨の記載部分を引用し、貸金業法四三条に関する部分は、これに着目したとしても、利息制限法の制限利率を超過する部分は、支払わなくてもよいことに変わりはなく、論旨を変更しなければならなくなるものでもないので、この部分を引用しなかったものである。

したがって、本件記事二は公正な論評であり、違法性を有しない。

(二) 本件見出し二自体の違法性の有無

(原告の主張)

本件見出し二は、まったく断定的な見出しであり、一般読者をして、あたかも原告が行っている今の金利契約が利息制限法によって「禁じられた」違法行為であるかのごとき印象を与えたものであり、被告は、本件見出し二によって、違法に原告の評価を著しく低下させ、その業務に著しい不利益を与えたものである。

(被告の主張)

原告の主張はすべて争う。

貸金業法四三条一項によっても、利息制限法の制限利率を超える利息は、利息制限法違反で無効であることに変わりはないのであるから、これを「今の金利は実は法律違反」と見出しをつけて論評することは違法ではない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件記事一の違法性)について

1  本件見出し一を含む本件記事一の違法性

(一) 本件記事一は、「サラ金の真実 空前の利益の裏側」との副題のもとに、「未成年者に貸し親から取り立て」との見出し(本件見出し一)を付し、冒頭に「都市銀行より儲け、株式も公開し、サラ金は「我が世の春」。しかし、その陰で融資や取り立てのトラブルが増えている。かつて批判された体質はそう変わっていない。」と記載したうえで、消費者金融業界の現状を紹介するもので、消費者金融業者(原告ではない)の看板の掲げられたビルの写真、数社の消費者金融業者の借入申込書の写真、都内のキャッシングコーナーの写真(数十社のカードが表示されている部分の写真。写真の下に「老舗のクレジットカードもサラ金もいまや同列」と記載されている。)及び個人の自己破産申立て件数の年度別棒グラフの写真を掲載している(甲一)。

そして、記事の内容も、別件訴訟の内容だけでなく、消費者金融業者大手五社に対するアンケートの回答を中心に、原告、他の消費者金融業者、日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会所属の弁護士、大蔵省の担当者などの話も交えて、消費者金融業界全般に渡って実状を紹介している(甲一)。

(二) このような、本件記事一の全体的な構成の中で、本件見出し一を含む本件記事一が、原告の名誉を毀損するものであるか否かを検討すると、まず、本件見出し一は、被告が主張するとおり、本件記事一全体に付けられた見出しであり、別件訴訟の記事もこの見出しの中に包摂されることになるとは考えられるが、本件記事一には、「未成年者への融資認める」との小見出しのもとで、原告を含めた消費者金融業者大手五社に対するアンケートによると、①未成年者に対する貸付をやめたと回答した業者もあるが、原告ほか一社は親の同意なしに未成年者に対する融資を行っていると回答した、②本人の収入がない専業主婦への融資は五社とも行っていると回答した、③「事実上の家族からの回収はありますか」との問いに対して「まったくない」と答えた会社はなかった、したがって、主婦の債務を夫が肩代わりするだけでなく、親、兄弟、親戚が面倒をみることがあるとの記載もあり(甲一)、このようなアンケート結果についての記事も含めた見出しとなっているものであることは明らかである。そして、原告は、このアンケート結果の真実性は争っていないのであるから、「未成年者に貸し親から取り立て」という本件見出し一は、消費者金融業界の実状を紹介する記事の見出しとして不適切なものとはいえない。「取り立て」という表現も、「事実上の家族からの回収」、つまり、法的責任のない者からの債権の回収を意味するもので、表現として特に不適切とは考えられない。

(三) また、本件記事一の本文の別件訴訟についての記載も、第二の二、2で認定したとおり、あくまで、別件訴訟の内容を紹介するもので、別件訴訟の被告である原告の答弁内容も明確に記載しており、A側の取材による部分が多いものの(原告は、Aの訴訟代理人への取材をもって中立性を害する旨主張するが、別件訴訟が存在する以上、その訴訟代理人に取材して記事を書くことは自然であり、このことが中立性を害することになるとは考えられない。)、その表現は、全体として訴訟の内容を紹介する記事として不適切なものとはいえず、読者にAの主張が真実であるかのような誤解を与えるものともいえない。

そして、原告は、別件訴訟の答弁書で原告がAから五万五〇〇〇円を受け取ったことは認めているとの記事内容の真実性については争わないのであるから、この別件訴訟の内容も含めて、消費者金融業界の実状を紹介する記事の見出しとして、本件見出し一が不適切なものとは認められない。

(四) なお、原告は、本件記事一は、アエラに五週にわたって連続して掲載された原告に対する批判的内容を中心に取り上げた特集の一環であり、原告に対する一般読者のイメージを著しく低下させようとした記事であると主張し、アエラ平成八年一〇月七日号、同月一四日号(本件記事二)、同月二一日号、同月二八日号にも原告に関する記事が掲載されていることが認められる(甲二、四から六まで)が、本件記事一は、原告だけを対象とするものではなく、原告を含む消費者金融業界の実状を紹介する記事として独立したものであり、その表現も不適切なものとはいえないので、他の記事内容にかかわらず(原告は、他の記事内容については、本件記事二を除いて名誉を毀損するとの主張をしておらず、本件記事二についても、後記のとおり、原告の名誉を毀損するものとは認められない。)、本件記事一が原告主張のような意図で掲載されたものと認めることはできない。

(五) したがって、本件見出し一を含む本件記事一に違法性はなく、本件記事一が原告の名誉を毀損するとの原告の主張は理由がない。

2  本件見出し一自体の違法性

原告は、本件見出し一は、一般読者をして、あたかも原告が未成年者に貸し付けた上でその親に対して強制的に返済させているという印象を与えるものである旨主張するが、本件見出し一が本件記事一全体に付けられた見出しであり、原告に関する事柄だけについての見出しではないことは、掲載された写真を含めた本件記事の構成(前記1(一)、(二)で認定したとおり。)からも明らかであり、その表現も、法的責任のない者からの債権の回収を意味するものとして不適切とはいえないので、本件見出し一自体に違法性はなく、本件見出し一自体が原告の名誉を毀損するとの原告の主張も理由がない。

二  争点2(本件記事二の違法性)について

1  本件見出し二を含む本件記事二の違法性

(一) 本件記事二は、「サラ金の真実 誰も言わない支払義務なし」との副題のもとに、「今の金利は実は法律違反」との見出し(本件見出し二)を付し、冒頭に「消費者金融の金利が高いことは知られている。しかし、それが利息制限法違反であることは知られていない。上限金利を超える部分は本当は払わなくてもいいのだ。こんなグレーゾーンでの営業をいつまで放置するのか。」と記載したうえで、消費者金融業者だけでなく、信販会社や銀行系のクレジットカード会社の貸出金利も利息制限法の上限を超えているが、利息制限法の上限を超える部分の金利は支払う義務はない旨論評したもので、利息制限法の上限金利を超える貸出金利を記載した消費者金融業者(業者名は明らかでない。)のチラシの写真を掲載している(甲二)。

(二) このような、本件記事二の全体的な構成の中で、本件見出し二を含む本件記事二が、原告の名誉を毀損するものであるか否かを検討すると、そもそも、本件見出し二も、本件記事二も原告だけを対象とするものではなく、消費者金融業者全般、さらには信販会社や銀行系のクレジットカード会社の貸出金利一般を論評するものであり(甲二)、しかも、原告は原告の貸出金利が他の消費者金融業者と同じく利息制限法の上限を超えることは認めているのであるから、原告が本件見出し二を含む本件記事二によって名誉を毀損されたとは認められない。本件記事二が読者に原告を中心とした記事であるとの印象を与えるとか、読者が本件記事二を原告を念頭に置いて読むとの原告の主張は、本件記事二の客観的内容から離れた原告の主観的なもので、これを認めることはできない。

(三) なお、本件記事二が、本件目論見書の記載のうち、貸金業法四三条についての記載を引用していないことは、前記第二の二、3で認定したとおりであるが、本件記事二では、本件目論見書の記載のうち、「(利息制限法第一条)第二項により債務者が当該超過部分を任意に支払ったときは、その返還を請求することはできないとされております。」との部分を引用しており(甲二、三)、利息制限法の上限金利を超える利息も、任意に支払った場合には有効な弁済になることを否定しているわけではない。貸金業法四三条の趣旨も、被告が主張するとおりであり、所定の事項を記載した契約書面を交付するなどの要件を満たした場合、債務者が貸金業者に利息制限法の上限金利を超える利息を任意に支払ったときは、有効な弁済とみなされるということに尽き、その場合も利息が利息制限法の制限に反するものであることに変わりなく、その実質は、本件目論見書のうちの前記引用部分と異なるところはないから、貸金業法四三条にまで触れた方がより正確な論評になった面はあるとしても、これに触れなかったからといって不公正な論評になるものでもない。その他、本件記事二に不適切な表現があるとは認められない。

また、本件記事二の、消費者金融業者と信販会社や銀行系のクレジットカード会社の金利の比較の記事についても、一般的な傾向を比較したにすぎず、そのことが記事自体から明らかであるから、厳密には不正確な部分があったとしても、それをもって不公正な論評であるとする批判は当たらないし、信販会社や銀行系のクレジットカード会社の金利は、消費者金融業者のある社よりおおむね高いと記載している部分もあり、偏頗な記事になっているわけでもない。

(四) したがって、本件見出し二を含む本件記事二に違法性はなく、本件記事二が原告の名誉を毀損するとの原告の主張は理由がない。

2  本件見出し二自体の違法性

原告は、本件見出し二は、一般読者をして、あたかも原告が行っている今の金利契約が利息制限法によって「禁じられた」違法行為であるかのごとき印象を与える旨主張するが、本件記事二は、前記のとおり、原告だけを対象とするものではなく、消費者金融業者全般、さらには信販会社や銀行系のクレジットカード会社の貸出金利一般を論評するものであり、本件見出し二は、そのような一般的な論評の見出しであり、原告を特定する文言はない(甲二)のであるから、これによって原告が名誉を毀損されたとは認められない。

また、「今の金利は実は法律違反」という表現も、被告が主張するように、利息制限法の上限金利を超える金利の契約は同法に反して無効である(乙五、六)との趣旨を示すもので、表現として不適切なものともいえない。

したがって、本件見出し二自体に違法性はなく、本件見出し二自体が原告の名誉を毀損するとの原告の主張も理由がない。

三  よって、原告の主張するアエラの記事(見出しを含む。)は、いずれも原告の名誉を毀損する違法なものと認めることはできないので、原告の本件請求は、いずれも理由がない。

(裁判長裁判官福田剛久 裁判官小林元二 裁判官平野淳)

別紙謝罪広告

「アエラ 平成八年九月三〇日号」二〇頁において、「未成年者に貸し親から取り立て」という見出しを掲げ、あたかも株式会社武富士が未成年者に貸し付けた上でその親に対して強制的に返済させているという印象を与える記事を掲載し、また、「アエラ 同年一〇月一四日号」五八頁において、「今の金利は実は法律違反」という見出しを掲げ、貸金業者が貸金業法四三条によって利息制限法超過利息についても適法に弁済を受けられるにもかかわらず、あたかも貸金業者が利息制限法超過利息について弁済を受けることがすべて違法であり許されないという印象を与える記事を掲載いたしましたが、右記事の内容は事実に反するものでありますので、株式会社武富士の名誉を著しく傷つけ、株式会社武富士及びその関係者に対し多大なご迷惑をお懸けしたことに対し、心から陳謝いたします。

平成  年  月  日

株式会社朝日新聞社

広告掲載条件

掲載場所 週刊誌「アエラ」

大きさ 一面全面

活版印刷による

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